バシビウス (Bathybius)またはバチビウスとは、イギリスの科学者トマス・ヘンリー・ハクスリーが、大西洋の3700mの深海から採取したというアメーバに似た架空の原始生物。
1857年、ハクスリーは海底の泥から原始生物を発見し、これこそ生命の原始的な姿であると唱え、「バシビウス・ヘッケリ」 (Bathybius haeckelii) という学名まで与えた。しかし、その後の調査により、これはただの化学変化で生じた物質であることが判明し、ハクスリーも自らの過ちを認め、この説を撤回した。海洋生物史上有名な話である。
性質
ハクスリーのバシビウス観察は次のようなものである。「ドレッジャーでとった泥の上には、ねばねばしたものが、たくさんついていた。この泥を弱いアルコールを含んでいるぶどう酒に混ぜて振ってみると、膠のような小さい塊が、凝固し分離してきた。この塊の一部分をとり、一滴の海水中に入れて、顕微鏡でしばらくのぞいていると、卵白に似た不規則の網状の形が現れてきた。やがてこれははっきりした輪郭をもち、周囲の水とは明瞭に区別できるようになった。これこそ生命の原始的な形であることは、もはや疑うことはない。」
正体解明
1875年、チャレンジャー号の調査員たちは、バシビウスが生物でないことを確認した。つまり、海水にアルコールを添加したため、硫酸カルシウムの沈殿が生じ、これに砂や泥が混じって、乳白色のにかわ状の塊が形成されたに過ぎず、実験室で容易に再現できることを示した。当時のチャレンジャー号の調査探検に対する科学者の関心は、海底にはまだ古代の生命が生きていて、生命の起源について何かしらの手がかりが見つかるのではないか、というものだった。しかし海底から実際に採取された深海生物は、バシビウスの類でもなく、必ずしも珍奇な形をした動物でもなく、多くは沿岸の浅瀬にも見られるものであった。 チャールズ・ワイヴィル・トムソンから手紙を受け取ったハクスリーはネイチャー誌に投稿し発見報告を撤回した。
関連書籍
- 『チャレンジャー号探検』西村 三郎 (著) 中公新書 (1992/10) ISBN 4121011015
脚注
参考文献
- 石川千代松『進化論的動物学綱要』弘道館、1908年、14頁。CRID 1130282270416282240。doi:10.11501/832709。 NCID BN14526747。OCLC 673284385。NDLJP:832709。https://dl.ndl.go.jp/pid/832709/1/19。2024年1月28日閲覧。
- 相川広秋『プランクトン』小山書店、1944年、53頁。CRID 1130000795424849792。doi:10.11501/1064123。 NCID BN0415433X。OCLC 673919667。NDLJP:1064123。https://dl.ndl.go.jp/pid/1064123/1/34。2024年1月28日閲覧。
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